今回からmimiオーディオさんにレビュー記事の転載をさせていただくことになりました。西野績葉(にしのせきよう)と申します。mimiオーディオさんにレビュー記事の出稿依頼が来たため、時々レビューやコラムなどを執筆いたします。
今回の内容は私のnote記事からの転載になります:
私は今、Tanchjim Origin-AT Lost Manorという一つの芸術作品に打ちのめされています。これは単なるオーディオ機器のレビューではなく、ある種の極めて主観的な告白であることを、まずお断りしておかねばなりません。
Tanchjim Origin-AT Lost Manor:スリムだが筋骨逞しい「戦闘メイド」が誘う、至高の音色の迷宮(自腹、超長編レビューポエム)
Tanchjim Origin-AT Lost Manor 開封の儀
序章:てんきちゃんの世界観と、中立性が崩壊する時
このレビューは、最初から公正中立ではありません。Tanchjimというメーカーの製品が持つ、その端正で揺るぎない美学に、私は深く傾倒しています。限定生産。信仰心が試される時が来た。私はそう思いました。そして、Origin-AT Lost Manorのアイコンであるてんきちゃん(浅野てんき)。
浅野てんき
このカワイイ美少女キャラクターの存在が、製品の世界観を何倍にも深めています。私は、てんきちゃんファンでもあるのです。その最高位クラスの製品と、愛するキャラクターの物語が一体化した限定版、しかも8万クラスとなれば「良いに決まってる」という確信犯的な偏愛から逃れる術はありません。
というか、完全に勢い前のめりでタンス貯金をぶち込みました。
正直音に対してのコスパは良くありません。5-6万円なら満足し納得するかもしれないというレベルではあるかもしれません。
しかし、愛する女性に結婚指輪を送る時、アリエクスプレスの激安のコスパのいい指輪を贈るでしょうかということです。
開封体験:単なる製品ではなく「聖典」との対面
開封初日で、私は文字通りお腹いっぱいになりました。あの瞬間は、単なる製品の開梱ではなく、Tanchjimが作り上げた濃密な世界観への入門儀式でした。
付属しているのは、その世界観を記した「聖典」とも呼ぶべきビジュアルブック(絵本)です。その圧倒的なページ数と、細部まで描き込まれたアートワークには、製作陣の尋常ではない熱量が込められています。これは、単なるオマケや付属品の域を超えています。
この内容を公に晒すのは憚られます。購入者だけが体験できる贅沢であり、製品の価格のうち、この世界観の創造に支払っている分も十分すぎるほど納得させられます。
Tanchjimは狂ってるだろ?(誉め言葉)
さらに感動したのは、細部の配慮です。フェイスプレートの美しいデザインを守るために付属しているシリコンカバーが、筐体に寸分の狂いもなく、ピタリとハマるのです。この徹底したフィット感には、美しさをそのままの状態で永くユーザーに使ってほしいという、Tanchjimの深い愛情と製品への誇りを感じます。
音の第一印象は「戦闘メイド」。そして重さが語るDD機の真理
昨日までの充足感を胸に、いよいよ覚悟を決めてのリスニングです。
……(リスニング中)
!!!!いかつい!!!!!
正直、このTanchjim Origin-AT Lost Manorの音に抱いた第一印象は、そのビジュアルとの強烈なギャップにあります。これは、見た目は極めてスリムで清楚なのに、そのメイド服の下には、音楽の激流にも一切揺るがない筋骨逞しい強靭な肉体を秘めている、「スリムだが筋骨逞しい戦闘メイド」のサウンドです。清らかさと獰猛さが同居する、そのギャップがたまらない。てんきちゃんはムキムキなのか?
筐体の質量と裏切らないDD機
この音を支えるのが、その物理的な質量です。片側14g超という、イヤホンとしてはかなりの重量感があります。私は常々感じているのですが、ダイナミックドライバー(DD)搭載機において、重たいイヤホンは裏切りません。この重さが、音の不要な振動を抑え込み、ドライバーの動きを正確に制動し、結果として豊かな響きとクリアな分離の両立に寄与していることは想像に難くありません。
そして、この重量がありながら、装着感が非常に優れているという奇跡的なバランスを持っています。重さがあるゆえの安心感と、計算され尽くした筐体形状によるフィット感のおかげで、長時間のリスニングでも苦痛を感じさせないのは、設計者の勝利と言えるでしょう。
音場は「領域」、響きは「魔術」
このLost Manorの最大の特長は、その広大で美しい音場にあります。
これは「音場が広い」という単純な表現では収まりきりません。まるで、聴き手の周囲にサウンドの領域を展開するかのような、立体的な余韻の表現です。特に、顔の顎の周りにかけて、音がふわーっと広がる感覚は、イヤホンで聴いていることを忘れさせるほど。この空気の広がりと、正確な定位が両立していることに、私はただただ唸りました。筐体にある2pinケーブルの横に配置されたベントは、この異次元の音場を作り出すための、まさに魔法の窓であるかのようにさえ感じられます。
アートコアを聴く。「ハァ?」(ちいかわ)
音の情報密度の高いアートコアを聴き込むと、その真価が爆発します。
……(リスニング中)ハァ?(ちいかわのうさぎ)
なんじゃこりゃ。凄すぎて、もはや「おおう、すげぇな」という、語彙を完全に失った原始的な感動しか出てきません。
確かに、一点突破の超高解像度を追求したNICEHCKのHimalayaのような機種と比較すれば、Lost Manorの音にはわずかながら「甘さ」や「熱量」が乗っているのかもしれません。しかし、そのわずかな解像度の差など、このイヤホンが持つ「響き」の魔術が全てを補って余りあります。
音がキレぇーに、そして官能的に響き渡る。それなのに、驚くべきことに、その豊かな響きが、個々の音の分離をあまり邪魔しないのです。
世間では「分離が良い」ことが重視されますが、分離さえすれば良いというものではない。Lost Manorは、分離の明瞭さがありながらも、音同士が豊かに反響し合い、響きのレイヤーを幾重にも重ねています。だからこそ、音が重なり合っても、その奥に隠れた微細な音までしっかりと追うことができる追従性を持っているのです。
特に、音数の少ないアコースティックなパートや、金属質のパーカッションの「響き方」は、私のオーディオ的な性癖に深く、深く刺さります。単なる残響音だけではなく、音に奥行きと質感を与える「いい味」として機能しています。
Tanchjimの哲学と、余韻が語る価値
このイヤホンが突き詰めているのは、Tanchjimが掲げる明確な目標周波数音圧応答曲線、TANCHJIM Target Responseに基づく「端正な音バランス」という基本設計の上に、「響き」「制動」「制震」の三要素を究極まで高めるという哲学です。
他のTanchjim機(4UやFISSION、FOLA、特にOrigin)と音のバランス自体はほぼ同じです。近くても、このLost Manorが別格なのは、その「余韻」の凄みにあります。
音の引き際に注目してください。スーーーーッと、まるで熟練の職人が筆を滑らせるように、音が美しくも儚いように溶けて消えていくのです。この「余韻感の違い」は、このクラスのハイエンド機でなければ勝負できない領域であり、Lost Manorは特にその余韻感の美しさを極めています。出ている音そのものだけでなく、音が消え去る瞬間までが美しい。おもわず「うつくしひい」とぼそっと言ってしまうような音なのです。
コストと設計の必然性
「正直音だけなら…コストはまだパッケージを簡素化したり、筐体の切削とか工程を簡素化したりすればもっと安くはできるだろう」という考えは、ごもっともです。
ほとんどの人はTanchjim Origin まで行けば十分すぎるでしょう。
Tanchjimがこの製品で目指したのは、単なる「音を出す機械」ではなく、この官能的な響きと、戦闘メイドのような逞しい制動力、そして圧倒的な世界観を両立させることでした。それを実現するためには、この複雑な筐体設計と、手間のかかる素材の組み合わせ、つまりこの価格が、必然のコストだったのだと、聴き込めば聴き込むほど納得させられます。というか高いお金出したんで、そうするしかなくなります。
私は断言します。Tanchjimに関しては、下手に「ステップアップ」を考えるよりも、自分が手にできる最もグレードの高いものを買った方がいい。その価格差は、後悔の念ではなく、この「響きと制動の極致」という唯一無二の体験となって、必ずリスナーに還元されるからです。
ハイクラスでちょうどいい音を知ってしまった耳の葛藤
このLost Manorのサウンドは、正確無比なモニタリングを目的とした音ではありません。それは、ある種の「味」を持っています。
例えるなら、風呂場で歌うカラオケのような、豊かで官能的な響きの快感を内包しています。おそらく真鍮などの素材も組み合わせてあるこの金属的な響きは、HIFIMANのような「無機質で正確、無味無臭を極めていった時の凄み」とは対極にあります。
これは例えれば、
「俺はピアノが好き!でもピアノだったら製造メーカーに拘るんだ!カワイのピアノよりはスタインウェイなんだ、ヤマハではないんだぜ」
というように、自分の音楽的な好みや嗜好が明確にある人、そしてその個性を愛し、追求する人が買うべきイヤホンです。Lost Manorは、その個性の方向性を、多くのリスナーが「素晴らしい」と唸るであろう高いレベルで達成しています。
しかし、このイヤホンを手にしてしまった私の耳は、もう後戻りできません。
言葉は悪いけど、王様の体験を知ってしまったスラムボーイなのでこんなもの聴いてしまったあとに普段の生活に馴染めるのか、これは。みたいなひどさがありますね。このイヤホンには。
Xでの到着ポスト
この快楽は、一度知ってしまうと、もう手放したくはない。生活レベルを落とすことができなくなったら破産ですが、この音の体験は、そのリスクを背負ってでも追い求める価値があると感じてしまうのです。この「手放したくない」という切実な葛藤。
「軽自動車が買えるほど高くない」という価格はむしろコスパいいともいえるでしょう。
そして音バランスも「ちょうどいい感じ」を内包している。そのギリギリの現実的なバランスの「丁度よさ」も、このイヤホンには同時に存在しているのです。
そして、ステム交換式の採用。これは、音質を変えられるという機能的なメリット以上に、耳の湿気などでフィルターが傷んだ際に容易に修理できるという、永く愛用するためのメーカーからのメッセージです。この音を、あなたと共に永く歩ませる、という覚悟が、ここにも示されているのです。
Tanchjim Origin-AT Lost Manorは、単なるイヤホンではありません。それは、Tanchjimの美学と、てんきちゃんの物語、そして音響技術の極致が融合した、一つの文化的な到達点なのです。
この「戦闘メイド」の音色は、間違いなく、あなたの耳を至高の迷宮へと誘うでしょう。
Tanchjimのイヤホンに惚れたら、もはやOriginにいずれたどり着くのは必然、そう申し上げておきましょう。
としてもです、万人に大体は訴求する所を狙っている音だということは大いに感じます。多くの人はなるほどと唸るでしょう。
ただだいたいの人はOrigin無印の方でもいいんじゃね?とは思わなくもありません。
「マジでTanchjim愛してる」って人に対して応えるために現時点で気(キ)を注ぎ込みきったイヤホンだろうとおもいます。
Tanchjim Origin-AT Lost Manor レビュー・・・・ではなくポエム。


